■途上国における社会保障

西欧諸国では、一般に、19世紀末大不況から二度の大戦を経験する過程において、社会保険や最低生活保障など社会保障の中核的な制度の生成と発展がみられ、それは第二次世界大戦後の経済の繁栄と共に全面化するにいたった。こうして現出した福祉国家体制は、充実した社会保障制度・政策とともに、フィスカルポリシーによる経済安定化、議会制民主主義制度と普通選挙制に基づく労働者の政治参加、および労働組合・産業団体等の組織化といった要素が相互に関連して築かれたものである。
その点、発展途上国においては、一般に、社会保障制度の発展が遅れて進行しているのみならず、各国の政治・経済・社会的条件により発展のあり方と度合いに多様性がみられる。韓国・台湾やラテンアメリカのいくつかの国々など、一定の経済発展を実現した国々においては、比較的、年金・医療保険を軸とする社会保障制度の整備・充実がみられる。しかし、多くの国々においては、未だに慢性的な貧困が最大の社会問題であって、老齢や疾病に対応する現金給付としての社会保険の政策的な位置づけは高くない。むしろ、都市貧困層対策や農村開発といった、多様な政策のミックスにより福祉の向上を図ることが主要な課題となっている。
ラテンアメリカ諸国など一部の国々では、新自由主義的政策思想の輸入や財政危機を背景に、年金制度等の民営化が図られるといった動きもみられる。一方で、世界銀行は1990年代の後半から、「ソーシャル・セーフティネット」の充実を強調するようになっているが、それは、通貨・経済危機に際する雇用機会の喪失に対応するための一時給付など、失業対策的な所得保障の充実を主眼としている。


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