■公的企業の民営化

1980年代前半の累積債務問題への対応として、IMF・世界銀行の途上国向け貸付のコンディショナリティーに盛り込まれ、現在に至るまで多くの途上国における公共部門改革の主要課題とされているのが、公的企業の民営化と規制緩和による公的セクターの市場化である。
かつては先進工業国においても、電力・ガス等のライフライン供給や鉄鋼・自動車等の基幹産業が国有であることが多かったが、同様に、政府主導・キャッチアップ型の経済発展を目指した多くの発展途上国でも、経済発展の基盤をなす電力・水道など基礎的インフラの整備や輸出金融、あるいは基幹産業の広範な国有化・公有化がなされてきた。これが経済発展に結びついたかどうかは、各国のケースにより評価が分かれるところである。いずれにせよ、1980年代に入り、多くの発展途上国において、公的企業部門の肥大化が資金配分の非効率や国際競争力の欠如を生み出すと共に、公的企業に対する補助金や債務保証の付与という形で、財政悪化の一大原因をなしていると認識されることとなった。現在では、民営化・市場化が政策課題にのぼっていない国はほとんどないと言っても過言ではない状況にある。
なお、@1970年代からその萌芽を見せ、1980年代にイギリス・サッチャー政権下で典型的に全面化した民営化政策と、それを支える新自由主義的政策思想が、今日にいたるまでIMFや世界銀行の政策方針を経験的・思想的に支えていること、A発展途上国の側では、特にIMFや世界銀行の貸付への依存度が高い国々において、コンディショナリティーを遵守する必要があること、B同じく発展途上国政府の側で、民営化による株式や固定資産等の売却益(民営化収入)が、一時的な財政収入増加策として魅力的であること、
が、こうした状況の背景にある。


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