■徴税能力と課税の公平

発展途上国では、インフォーマルセクターの経済活動が大きいことがしばしば指摘されるが、インフォーマルセクターとはその定義上、公的に把握されない経済活動のことであるから、そこでの所得や取引に課税されることはない。 また、大企業や高額所得者への課税についても、彼らがしばしば政府あるいは税務当局と癒着関係にあるため、適正な課税が行われないケースがしばしば見られる。さらに、特定のセクターや外資に対する雑多の租税特別措置が、不合理な優遇課税や課税の不透明性につながっている場合も多い。
これらは、課税の水平的・垂直的公平を阻害している。同程度の経済力をもつ主体に対して、同等の課税が行われることは期待しにくい。また、都市貧困層や農村部における経済活動が的確に捕捉されないことは、低所得者に対する実質的な課税免除を意味するが、一方で富裕層に対する課税も適切に行われているとはいいがたい。こうした状況では、国民の租税制度に対する信頼は深まりにくく、租税回避を助長させることとなる。
IMFなど国際機関の後押しもあって、多くの発展途上国は1980年代から、関税や個別消費課税に依存する税制から、大衆所得課税と付加価値税制を柱とするいわば「現代的」な税制への脱皮を図ってきた。その進捗度合いは国により大きく異なるが、この「現代的」税制は、適切な制度設計はもちろん、高度な徴税能力とその合理的な執行、およびそれに裏打ちされた国民の納税協力があってはじめて機能する。その意味で、税制の転換は徴税能力のテコ入れとセットで進められる必要があるが、そう簡単なことではないのも事実である。


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